僕は、話し上手な人になりたいと思っていた。

分かりやすく伝えられる人。会話を盛り上げられる人。多くの人の前でも、自信を持って話せる人。

けれど、永松茂久さんの『人は話し方が9割』を聴いて、僕の中にある「話し上手」のイメージが変わった。

本当に大切なのは、たくさん話すことでも、うまい言葉を並べることでもない。

相手の話を聴き、その気持ちを否定せず、尊重すること。

僕は、話し上手になることよりも、「この人になら話しても大丈夫」と思ってもらえる人になりたい。

「話し方が9割」という言葉に引き寄せられた

この本を知ったのは、本屋だった。

『人は話し方が9割』という、とてもシンプルで強いタイトルが目に入った。話し方が、人間関係や人生にそれほど大きな影響を与えるのか。その内容が気になり、Audibleにもあったため聴いてみることにした。

本書は、会話をもっと楽にする考え方から、「また会いたい」と思われる話し方、人に嫌われない話し方、人を動かす話し方までを扱っている。

特に心に残ったのは、話し上手になるためには、自分がたくさん話すより、相手の話を聴くことが大切だという考えだった。

相手を否定せずに受け止める。相手の言葉を繰り返し、理解しようとする。感嘆や共感、質問を通して、相手が気持ちよく話せる会話をつくる。悪口や否定的な話題とは距離を置き、言葉だけでなく表情や姿勢も大切にする。

そこで語られていたのは、口が達者になるための技術だけではなかった。

会話の中心に自分を置くのではなく、目の前の相手を置くこと。その人に関心を持ち、その人を尊重すること。それが、話し方の土台になるのだと感じた。

あのとき、もっと話を聴けていたら

僕が「相手が安心して話せる人になりたい」と思う背景には、中学2年生のときの経験がある。

同じクラスの一人が、自ら命を絶った。

当時の僕は学級委員長だった。彼女とは少し話したことがある程度で、席は僕の斜め右前だった。笑顔と優しい声が、今も記憶に残っている。

亡くなったあと、僕は何度も考えた。

もっと話を聴けていたら。もっと周りを見ていたら。僕から声をかけることができていたら。

もちろん、僕が話を聴いていれば結果が変わったと断定することはできない。彼女が抱えていた思いや、亡くなった理由を僕が決めつけることもできない。

それでも、あの経験は、僕の中に大きな後悔として残っている。

そしてその後悔は、「これから出会う人には、安心して話せると思ってもらえる存在でありたい」という思いにつながっている。

相手の気持ちを否定せず、まず受け止めること。表情や声の変化に気づくこと。「大丈夫?」と自分から声をかけること。そして、相手が話したくないときは、無理に聞き出そうとせず、そばにいること。

人の心を完全に理解することはできない。それでも、「あなたの話を聴きたい」「ここにいても大丈夫」と伝えることはできる。

正しい答えより、気持ちを受け止める

誰かから相談されたとき、僕たちはつい、解決策を伝えようとしてしまう。

どうすれば問題が解決するか。何を変えれば前へ進めるか。相手のためを思うほど、正しい答えを早く渡したくなる。

けれど、相手が求めているのは、いつも答えとは限らない。

ただ話を聴いてほしいときがある。つらかった気持ちを分かろうとしてほしいときがある。自分の存在や感情を否定せず、そのまま受け止めてほしいときがある。

僕は相談を受けるとき、まず相手の気持ちを受け止めることを大切にしている。

そして、相手が話した言葉を繰り返しながら、「自分はこう理解したけれど、合っているかな」と確認する。

分かったつもりにならない。相手の気持ちを勝手に決めつけない。その人自身の言葉を大切にしながら、少しずつ理解しようとする。

そうした関わりを意識するようになってから、相談されることが増えた。

自分が良い答えを持っているからではないと思う。「話しても否定されない」「まず聴いてもらえる」と感じてもらえることが、相談する安心感につながっているのかもしれない。

この本を通して、話し上手とは、うまく話せる人ではなく、相手を尊重できる人なのだと感じた。

うつ病になって、言葉の受け取り方が変わった

僕自身、うつ病を経験した。

心も体も思うように動かず、これまでできていたことができなくなった。頑張りたい気持ちがあっても、頑張れない時期があった。

そんなとき、「頑張れ」という言葉は、必ずしも力になるわけではなかった。

その一方で、無理に励まさず、ただそばにいてくれる人がいた。僕の状態を否定せず、話せるときに話を聴いてくれる人がいた。

その存在に救われた。

だから僕は、苦しんでいる人に対して、「頑張れ」と前へ押し出す前に、「今までよく頑張ってきたね」と伝えたい。

そして、「早く元に戻ろう」と急がせるのではなく、「今は休んでも大丈夫」と伝えたい。

言葉は、同じ内容でも、相手の状態や関係性によって受け取られ方が変わる。

だからこそ、自分が言いたい言葉を投げるのではなく、今の相手に必要な関わりは何かを考えたい。

安心して話せる教育の場をつくりたい

この学びを、僕は教育の活動に最も生かしたいと思っている。

にいみ塾や、これから取り組みたいフリースクールでは、不登校の子どもとその保護者に寄り添いたい。

子どもに対して、「学校に行きなさい」「もっと頑張りなさい」と、一つの正解を押しつけるのではない。

「今までよく頑張ってきたね」
「今は休んでも大丈夫だよ」

そう伝えたうえで、その子が話したいと思ったときに、否定せずに聴ける場所をつくりたい。

話したくない日は、無理に話さなくてもいい。沈黙したり、一人で過ごしたりしてもいい。

否定、比較、説教をしない関わりを大切にし、できなかったことばかりを見るのではなく、その子ができたことや小さな変化を一緒に見つけたい。

教室に来ることが難しい子には、オンラインでもつながれる環境をつくる。机に向かって会話することが負担なら、農業体験を通して、自然の中で一緒に作業する。

人は、向かい合って「話してください」と言われるより、同じ方向を見ながら何かをしているときのほうが、自然に言葉が出ることもある。

学習を教えるだけではなく、「ここでは否定されない」「話しても、話さなくても大丈夫」と思える場所をつくる。

その安心感があって初めて、子どもは自分の気持ちや夢について考えられるのだと思う。

話し方の前に、相手への姿勢がある

『人は話し方が9割』というタイトルだけを見ると、うまく話すためのテクニックを学ぶ本だと思うかもしれない。

けれど、僕がこの本から受け取った一番大きな学びは、技術よりも、相手を尊重する姿勢だった。

正しい答えを伝えることより、まず気持ちを受け止める。
自分の話をすることより、相手の話を聴く。
無理に前へ進ませるより、立ち止まっている時間も認める。

僕は、あのときの後悔を消すことはできない。うつ病になった経験も、なかったことにはできない。

でも、その経験を、これから誰かと関わるときの姿勢に変えることはできる。

目の前の一人の話を丁寧に聴くこと。声や表情の小さな変化に気づくこと。答えを急がず、その人の気持ちを尊重すること。

僕はこれからも、話し上手になることより、安心して話せる人になることを目指したい。

もし、あなたの周りに少し元気がない人がいたら、すぐに答えや励ましを渡す前に、こう伝えてみてほしい。

「話したくなったら、いつでも聴くよ」

その一言と、否定せずに受け止める姿勢が、誰かにとって安心できる居場所の始まりになるかもしれない。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

話を聴かせてください

うつ病・精神疾患で悩んでいる方の相談を受け付けています。話したくないことは話さなくて大丈夫です。オンライン対応・無料。経験者としての対話であり、医療行為・専門的カウンセリングではありません。

この記事は個人の考えをまとめたものであり、医学的な助言ではありません。心身の不調が続く場合は医療機関にご相談ください。今つらい状態にある方は、#いのちSOS(0120-061-338/24時間)やよりそいホットライン(0120-279-338/24時間)など、専門の窓口にご連絡ください。

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